こんにちは。衛生士のくまさきです。寒くなってきましたね。体調も崩しやすい季節なので手洗いうがいをこまめに行いましょう。
体調回復には睡眠が大切だと思いますが、なかなか眠れない時もあります。ストレスとの関係も大いにあり得ることなので、今回はこのタイトルで書きたいと思います。
目次
- 1 序章:なぜ「歯」と「睡眠」と「ストレス」は関係しているのか?
- 2 歯ぎしりとは?──その正体を知ろう
- 3 睡眠中の歯ぎしりが起こるメカニズム
- 4 ストレスが歯ぎしりを引き起こす理由
- 5 現代人に急増中!ストレス社会と歯ぎしりの関係
- 6 歯ぎしりの種類と特徴
- 7 歯ぎしりによって起こる悪影響とは?
- 8 歯ぎしりが睡眠に与える影響
- 9 逆もまた真なり──睡眠不足が歯ぎしりを悪化させる?
- 10 歯科医が教える歯ぎしりチェック法
- 11 マウスピースは本当に効果的?
- 12 ストレスケアで歯ぎしりを防ぐ方法
- 13 睡眠の質を上げるライフスタイル習慣
- 14 歯科×睡眠医療──連携で見える新しい治療の形
- 15 まとめ:歯ぎしりは心と体のSOSサイン
- 16 よくある質問(FAQ)
序章:なぜ「歯」と「睡眠」と「ストレス」は関係しているのか?

「最近、朝起きると顎がだるい」「歯がなんとなくしみる」──そんな経験はありませんか?実はその裏には、“睡眠”と“ストレス”という見えない要素が深く関係しています。歯科の世界では、歯ぎしりは単なる癖ではなく、心と体が発するストレスのサインと考えられています。
私たちが眠っている間、意識は休んでいても体は働き続けています。脳が日中の情報を整理する中で、緊張状態が残っていると、顎の筋肉に力が入り、無意識のうちに歯をすり合わせてしまうことがあります。これが「睡眠中の歯ぎしり」です。
この現象は単なる「音の問題」ではなく、歯や顎、そして睡眠の質そのものに影響を与える深刻なサイクルを生み出すことがわかっています。つまり、「歯ぎしり=ストレスと睡眠のバランスが崩れているサイン」なのです。
歯ぎしりとは?──その正体を知ろう
歯ぎしりとは、上下の歯を強くこすり合わせたり、ぐっと噛みしめたりする無意識の動作のことを指します。医学的には「ブラキシズム(bruxism)」と呼ばれ、主に睡眠中に起こるといわれています。
人によっては「キリキリ」「ギリギリ」と音を立てるタイプもいれば、音を出さずに歯を食いしばるタイプも存在します。実はこの食いしばりタイプは気づかれにくく、症状が進行しやすいのが特徴です。
歯ぎしりは、子どもから大人まで誰にでも起こり得る現象ですが、その発生には多くの要因が絡んでいます。歯並びや噛み合わせの問題、ストレスや睡眠リズムの乱れ、さらには脳の活動パターンまで関係していると考えられています。
歯ぎしり自体は命に関わる症状ではありません。しかし、放置すれば歯がすり減る・割れる・顎が痛む・頭痛が起こるなど、生活の質を大きく損なう結果に。だからこそ、早期の発見と対策が欠かせません。
睡眠中の歯ぎしりが起こるメカニズム

では、なぜ「眠っている間」に歯ぎしりが起こるのでしょうか?その鍵を握るのが、脳の「睡眠ステージ」です。
人間の睡眠は、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に分かれています。歯ぎしりが最も起こりやすいのは、浅いノンレム睡眠からレム睡眠に切り替わるタイミングです。このとき、脳が半覚醒状態になり、交感神経(緊張・興奮を司る神経)が一時的に活性化します。
その結果、顎の筋肉が反射的に動き、強く噛みしめる動作が発生します。つまり、睡眠中の歯ぎしりは脳がストレスや興奮をリセットしようとする過程の副作用なのです。
また、最近の研究では、「睡眠時無呼吸症候群」との関連も注目されています。呼吸が止まりそうになった瞬間、体が酸素不足を補おうとして筋肉を緊張させる。その際に歯ぎしりが起きるケースもあるのです。
ストレスが歯ぎしりを引き起こす理由
ストレスが溜まると、肩がこる・頭が痛くなる──そんな経験、誰でもありますよね。実は顎の筋肉も同じように、ストレスの影響を受けています。
ストレスを感じると、体内では「コルチゾール」というホルモンが分泌され、交感神経が活発になります。その状態が長く続くと、無意識のうちに体が緊張を維持しようとするため、顎の筋肉にも力が入ります。
昼間は意識的にリラックスできますが、睡眠中は無防備。日中の緊張をそのまま引きずる形で、夜になると歯ぎしりという形で体が“放出”を始めるのです。
つまり、歯ぎしりは「ストレスを処理しきれなかった脳のデトックス反応」とも言えるでしょう。現代社会のように常にプレッシャーや不安にさらされる環境では、歯ぎしりが増えているのも納得です。
現代人に急増中!ストレス社会と歯ぎしりの関係
スマートフォンやSNS、長時間労働、睡眠不足──私たちが生きる現代社会は、常に“緊張”と“情報過多”にさらされています。その結果、知らず知らずのうちにストレスを抱え込み、睡眠の質を落とし、歯ぎしりへとつながるケースが増加しています。
日本歯科医師会の調査によると、成人の約6割が何らかの歯ぎしり・食いしばりの兆候を持っているといわれます。その多くは「自覚がないまま進行」しており、朝の顎のだるさや歯の違和感から初めて気づく人がほとんどです。
現代人の歯ぎしりを悪化させる原因には、次のようなものがあります
- パソコンやスマホによる長時間の前傾姿勢
- 睡眠時間の減少と質の低下
- 慢性的なストレスや緊張
- カフェインやアルコールの過剰摂取
特に、リモートワークや夜型生活によって自律神経のバランスが乱れると、睡眠リズムが崩れ、歯ぎしりが起きやすくなります。私たちが「リラックスしている」と思っていても、体はまだ戦闘モードを解除できていないのです。
歯ぎしりの種類と特徴
歯ぎしりと一口に言っても、実はいくつかのタイプがあります。それぞれ特徴や原因が異なるため、自分の症状を知ることが大切です。
1. 就寝時の歯ぎしり(ブラキシズム)
最も一般的なタイプで、眠っている間に起こる無意識の歯ぎしりです。音を立ててギリギリと擦り合わせる人もいれば、静かに食いしばる人もいます。特徴は、朝起きたときの顎の重だるさや歯の違和感。
2. 日中の食いしばり
仕事中や集中しているときに、無意識に歯をぐっと噛みしめている人も多いです。これは「TCH(Tooth Contacting Habit)」と呼ばれ、日常の小さな緊張の積み重ねが原因。パソコン作業やスマホ操作中に多く見られます。
3. 無意識下の顎緊張
一見、歯ぎしりとは関係なさそうですが、実は常に顎の筋肉が力んでいる状態。顔の筋肉が疲れやすく、肩こりや偏頭痛にもつながります。
こうしたタイプを知ることで、原因に合わせた対策を立てることができます。
歯ぎしりによって起こる悪影響とは?
歯ぎしりは「ただの癖」と思われがちですが、放っておくと体全体にさまざまな悪影響を及ぼします。
歯の摩耗・割れ
強い力で歯をこすり合わせるため、エナメル質がすり減り、象牙質が露出。これが「知覚過敏」や「歯のひび割れ」の原因になります。重症化すれば、虫歯ではないのに歯の神経が死んでしまうことも。
顎関節症
歯ぎしりの力は1本の歯に数十キログラムの負荷をかけることがあります。その結果、顎の関節(顎関節)に炎症が起こり、口が開きにくくなる、痛みが出るなどの症状が現れます。
肩こり・頭痛
顎と首、肩の筋肉は連動しているため、顎の緊張が肩や後頭部のこりを引き起こします。慢性的な歯ぎしりが続くと、肩こりや片頭痛の原因になることも珍しくありません。
睡眠の質の低下
歯ぎしりは脳の覚醒反応を引き起こすため、深い眠りが妨げられるという悪循環を生みます。結果として、朝スッキリ起きられない、疲れが取れないといった睡眠障害を招くのです。
歯ぎしりが睡眠に与える影響
「歯ぎしり=歯の問題」と思われがちですが、実は睡眠の質にも大きく関わっています。歯ぎしりが起こるタイミングは、睡眠が浅くなった瞬間。つまり、歯ぎしりが多い人は深い眠りに入りづらい傾向があります。
さらに、歯ぎしりによって交感神経が刺激されると、心拍数や血圧が上昇。体は「休息モード」ではなく「戦闘モード」に入ってしまいます。これでは、本来の回復機能が十分に働きません。
また、歯ぎしりの音がパートナーの睡眠を妨げることもあります。家族や同居人から「夜、ギリギリと音がしているよ」と言われて初めて気づくケースも多いです。
このように、歯ぎしりは単なる“口の問題”にとどまらず、睡眠の質そのものを左右する重要なサインなのです。
逆もまた真なり──睡眠不足が歯ぎしりを悪化させる?
驚くことに、「睡眠不足」が歯ぎしりをさらに悪化させることがわかっています。眠りが浅く、脳が十分に休めない状態では、神経の興奮が持続し、筋肉の緊張が取れにくくなるのです。
これは、夜中に脳が「疲労を発散したい」と誤作動を起こし、歯ぎしりを通してそのストレスを放出しているようなもの。つまり、ストレス→歯ぎしり→睡眠の質低下→さらなるストレスという悪循環が完成してしまいます。
このループを断ち切るには、まず「良質な睡眠」を取り戻すことが最優先。睡眠時間だけでなく、寝る前の習慣や照明、スマホ使用の有無など、眠る環境を整えることが歯ぎしりの改善にも直結します。
歯科医が教える歯ぎしりチェック法
自分では気づきにくい歯ぎしりですが、いくつかのサインを見逃さなければ早期発見が可能です。以下のチェック項目を確認してみましょう。
セルフチェックリスト
- 朝起きたときに顎がだるい・疲れている
- 歯の表面が削れて平らになっている
- 冷たいものや甘いものがしみる
- 口を開けると「カクッ」と音がする
- 頭痛や肩こりが慢性的にある
- パートナーや家族に「歯ぎしりしている」と言われたことがある
3つ以上当てはまる場合、就寝中に歯ぎしりをしている可能性が高いと考えられます。
歯科医院では、歯の摩耗状態や顎の関節の動きを確認することで、歯ぎしりの有無や程度を診断できます。また、必要に応じて「スリープスプリント」と呼ばれる専用マウスピースを作成することで、歯や顎を守ることができます。
歯ぎしりは早期発見・早期対応がカギ。放置すると歯の寿命を縮めるだけでなく、顎関節症や頭痛、睡眠障害など全身に波及することもあります。気になる症状があれば、迷わず歯科医院を受診しましょう。
マウスピースは本当に効果的?
歯ぎしりの対策としてよく知られているのが「マウスピース(ナイトガード)」です。では、実際にどれほどの効果があるのでしょうか?
マウスピースは、睡眠中に装着して上下の歯が直接こすれ合うのを防ぐ装置です。これによって、歯や顎への負担を大幅に軽減できます。歯が削れたり割れたりするリスクを減らし、知覚過敏の進行も抑えることができます。
ただし、マウスピースは「歯ぎしりそのものを止める」わけではありません。根本的な原因であるストレスや睡眠の質の低下を改善しなければ、根治は難しいのです。
とはいえ、症状を和らげるうえでは非常に有効な手段です。市販品もありますが、歯科医院で自分の歯に合わせて作るカスタムタイプの方が、フィット感がよく、効果も高いです。
また、マウスピースを使うことで、自分がどのくらいの力で噛んでいるのかを客観的に知るきっかけにもなります。歯ぎしりを「見える化」する第一歩としてもおすすめです。
ストレスケアで歯ぎしりを防ぐ方法
歯ぎしりの大きな原因のひとつは、心身のストレス。つまり、ストレスマネジメントができれば、歯ぎしりの改善にもつながります。
呼吸法を取り入れる
寝る前に深呼吸を5回繰り返してみましょう。鼻から4秒吸い、口から6秒かけてゆっくり吐きます。これだけで副交感神経が優位になり、体がリラックスモードに入ります。
軽い運動で緊張をリリース
ストレッチやウォーキングなど、軽い運動は筋肉の緊張を解き、睡眠の質を高めます。特に、首や肩、顎を回すストレッチは効果的。血流が良くなり、噛みしめ癖の軽減にもつながります。
マインドフルネスや瞑想
「今この瞬間」に意識を向けるマインドフルネスは、ストレスを根本から減らす方法として注目されています。寝る前の5分間、目を閉じて呼吸だけに集中することで、心が落ち着き、無意識の歯ぎしりを減らす効果が期待できます。
日中のTCH(食いしばり)対策
「気づいたときに歯を離す」を意識するだけでも大きな違いがあります。パソコン画面やデスクに「歯を離そう」とメモを貼っておくのもおすすめです。
ストレスを完全にゼロにすることはできませんが、「上手に逃がす」ことで体の緊張を和らげ、歯ぎしりの頻度を減らすことができます。
睡眠の質を上げるライフスタイル習慣
歯ぎしりを根本から改善するには、良質な睡眠が欠かせません。ここでは、睡眠の質を上げるための簡単な習慣を紹介します。
- 寝る1時間前にはスマホやパソコンを見ない
ブルーライトが脳を覚醒させ、眠りを浅くしてしまいます。 - 入浴は寝る1〜2時間前
38〜40度のお風呂にゆっくり浸かることで、体温が下がるタイミングで自然に眠気が訪れます。 - カフェイン・アルコールは控えめに
特に寝る前3時間以内の摂取は、睡眠の質を大きく下げる原因になります。 - 寝室環境を整える
部屋を暗くし、静かな環境を作りましょう。適度な湿度(50〜60%)と室温(18〜22度)も重要です。 - 寝る前のルーティンを作る
読書やアロマ、軽いストレッチなど、「眠りのスイッチ」を入れる習慣を取り入れましょう。
こうした生活習慣の見直しは、歯ぎしりだけでなく、心と体の両方を整えるベースになります。
歯科×睡眠医療──連携で見える新しい治療の形
近年では、「歯科」と「睡眠医療」が連携した治療が注目されています。歯ぎしりや睡眠時無呼吸症候群など、口と睡眠に関係する症状を総合的に診ることで、より根本的な治療が可能になるのです。
歯科医がマウスピースを作成し、睡眠専門医が睡眠の質を分析する。こうした連携治療は、これまで見過ごされがちだった“眠りの中のトラブル”を可視化し、歯と睡眠、両方の健康を守る新しいアプローチとして広がりを見せています。
また、AIを使った睡眠データ解析や、噛みしめ検知アプリなど、テクノロジーを活用したセルフケアも増えています。今後は、歯科医療と睡眠医療がさらに融合し、「歯から眠りを整える時代」が到来するかもしれません。
まとめ:歯ぎしりは心と体のSOSサイン

歯ぎしりは、単なる“癖”や“歯の問題”ではなく、ストレスと睡眠の乱れがつくる心と体の警告信号です。
眠りの質を見直し、ストレスを上手にコントロールすることで、歯ぎしりは必ず改善できます。
そして、歯科医のサポートを受けながら、自分の体の声に耳を傾けていくことが何より大切です。
「歯ぎしりがある=自分をいたわるタイミング」。そう考えて、今日から少しだけ、心と体を休ませてあげましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:歯ぎしりは治りますか?
A:完全になくすのは難しい場合もありますが、ストレスケアや睡眠改善、マウスピースの使用で大幅に軽減できます。
Q2:子どもの歯ぎしりもストレスが原因ですか?
A:子どもの場合は、歯の生え変わりや顎の成長による一時的なものが多いです。ただし長く続く場合は歯科で相談を。
Q3:歯ぎしりで歯が割れることはありますか?
A:はい。強い力で長期間続くと、歯や被せ物が割れることがあります。早めの対策が必要です。
Q4:歯ぎしりは遺伝しますか?
A:一部には遺伝的要因もありますが、生活習慣やストレスの影響が大きいとされています。
Q5:歯ぎしりをしているか自分で確認する方法は?
A:朝の顎の疲労感や歯の摩耗、家族からの指摘がヒントになります。不安があれば歯科医院でチェックを受けましょう。
無理しないといけないときばかりの世の中ですが、休めるときにしっかり休んで、自分の時間を大切にしたいですね。


