こんにちは。歯科衛生士のクマサキです。
だんだん寒くなってきましたね。インフルエンザも流行っているので手洗いうがいの徹底、マスクもして感染対策やっていきましょう。
最近友人などから親知らずの相談を受けることがあるので、今回はそれについて書いて行きたいと思います。

目次
はじめに:親知らずとは?
「親知らず」という言葉を聞くと、多くの人が「痛そう」「抜くのが怖い」と感じるかもしれません。
親知らずとは、20歳前後に生えてくる奥歯のことで、正式には「第三大臼歯」と呼ばれます。昔の人は長生きする人が少なく、親が子の歯の生え変わりを見ることがなかったため、「親が知らない歯=親知らず」と呼ばれるようになったと言われています。
親知らずは、全部で4本(上左右・下左右)生えるのが一般的ですが、人によっては1本も生えない場合もあります。また、まっすぐ正常に生える人もいれば、斜めに生えたり、歯ぐきの中に埋まったままの「埋伏(まいふく)歯」になっている人もいます。
このように、親知らずは「生え方」に大きな個人差があるため、「抜くべきか残すべきか」は一概に言えないのです。
親知らずが生える時期と特徴
多くの人が18歳~25歳の間に親知らずが生えてきます。ですが、実際に生えるかどうか、またどの方向に生えるかは顎の大きさや遺伝にも関係しています。現代人は昔に比べて食生活が柔らかくなったため、顎が小さくなっている傾向があり、その結果、親知らずが生えるスペースが足りなくなる人が増えています。
スペースが足りない状態で生えると、親知らずが斜めに生えたり、隣の歯を押して痛みを感じたりします。さらに、歯ぐきが部分的にかぶさったままだと、そこに食べカスや細菌が溜まりやすくなり、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」という炎症を引き起こすこともあります。
「痛くないから大丈夫」と放置していると、ある日突然、腫れや痛みが出て歯医者へ駆け込む羽目になることも…。
このように、親知らずは「正しく生えるかどうか」で運命が大きく分かれる歯なのです。
親知らずを抜くべきと言われる理由
多くの歯科医が「親知らずは抜いた方がいい」と勧めるのには、きちんとした理由があります。
まず一つ目は「虫歯や歯周病のリスクが高い」こと。親知らずは一番奥にあるため、歯ブラシが届きにくく、磨き残しが起きやすいのです。その結果、虫歯や炎症が進行しても気づかないまま悪化してしまうケースも少なくありません。
二つ目は「隣の歯を巻き込むリスク」。親知らずが斜めに生えていると、隣の第二大臼歯を押して歯並びが乱れたり、虫歯を引き起こしたりすることがあります。
さらに三つ目は「将来的なトラブル回避」。若いうちに抜いておくと、骨が柔らかく、治りも早いため、後々トラブルが起きてから抜くよりもリスクが少なく済むのです。
つまり、「痛くない今のうちに抜いておく方が良い」と言われるのは、将来のための“予防的処置”でもあるのです。

抜かない方が良いケースとは?
一方で、すべての親知らずを抜く必要があるわけではありません。
親知らずがしっかりまっすぐ生えていて、噛み合わせにも問題がない場合、無理に抜く必要はありません。正常に生えている親知らずは、他の歯と同じように咀嚼に役立つこともあります。
また、親知らずが骨の中に完全に埋まっており、炎症や痛みがない場合も「無理に抜かない方が良い」と判断されることがあります。特に、抜歯による神経損傷のリスクが高い位置にある場合、歯科医は慎重に判断します。
ただし、「今は大丈夫」でも、将来的にトラブルが起こる可能性があるため、定期的にレントゲンを撮って経過を観察することが大切です。
また、特に上顎の親知らずに関しては清掃管理が十分に行き届いており、虫歯や歯周病がなければ将来的に親知らずの移植用にとっておくこともできるため抜かなくてよい場合があります。ただし、親知らずのサイズ・親知らず周囲の歯根膜の保存状況、かみ合わせによっては移植歯として適さない場合があるため、歯科医院にて診査・診断が必要です。
親知らずを放置すると起こるリスク
親知らずをそのまま放置しておくと、思わぬトラブルが起こることがあります。代表的なのは以下の3つです。
- 智歯周囲炎
親知らずの周囲に細菌が溜まり、歯ぐきが腫れて激しい痛みが出ます。放置すると膿がたまり、顔が腫れることも。 - 虫歯・歯周病
歯ブラシが届きにくいため、親知らずだけでなく隣の歯まで虫歯になることがあります。 - 歯並びの乱れ
斜めに生えた親知らずが前の歯を押すことで、前歯がガタガタになるケースもあります。
特に20代後半から30代になると、抜歯の回復も遅くなるため、問題が起こる前に歯医者でチェックしておくことが重要です。
親知らずを抜くメリット・デメリット比較表

親知らずの抜歯には明確なメリットとデメリットが存在します。ここでは、実際に比較してみましょう。
| 項目 | 抜くメリット | 抜くデメリット |
|---|---|---|
| 虫歯・炎症予防 | 奥の歯ブラシが届かない部分の虫歯・歯周病を防げる | 抜歯後に一時的な痛み・腫れがある |
| 歯並び維持 | 歯の押し出しを防ぎ、歯並びが乱れるのを防ぐ | 抜歯時に神経や血管への影響リスクがある |
| 将来のトラブル回避 | 年を重ねてからの抜歯リスクを減らせる | 仕事・学校を休む必要が出ることも |
| 清掃のしやすさ | 歯磨きがしやすくなる | 一時的に噛みにくくなることがある |
こうして見ると、親知らずを抜くことの方が“長期的なメリット”が大きいことが分かります。もちろん、痛みや腫れといった短期的な負担はありますが、それも1〜2週間程度で落ち着くのが一般的です。
逆に、残しておいた場合は、数年後に炎症や虫歯が再発して再び歯医者に通うことになる可能性があるため、早めに決断することが大切です。
親知らず抜歯の流れ
親知らずの抜歯は、歯医者で行われる一般的な処置ですが、いざ自分がやるとなると緊張しますよね。
ここでは、抜歯の流れを簡単に説明します。
- 診察・レントゲン撮影
まず、歯の生え方や神経・骨との位置関係を確認するためにレントゲンを撮ります。場合によってはCTスキャンを行い、より詳細にチェックします。 - 麻酔
抜歯前には局所麻酔を行うので、処置中に痛みを感じることはほとんどありません。 - 抜歯
歯ぐきを切開し、必要に応じて歯を分割して取り出します。所要時間は10分〜30分程度。難しい埋伏歯の場合はもう少しかかることもあります。 - 止血・縫合
抜いた後はガーゼでしっかり止血し、縫合することもあります。 - 術後のケア
抗生物質や痛み止めが処方され、腫れや痛みを和らげるケア方法を指導されます。
初めて抜くときは不安かもしれませんが、実際には「思ったより痛くなかった」という人が多いです。最新の技術では、麻酔も効きやすく、処置時間も短縮されています。
抜歯の痛みはどれくらい?
「親知らずを抜く=痛い」というイメージを持つ人は多いですが、実際は麻酔がしっかり効くので、抜いている最中はほぼ無痛です。
痛みを感じるのは、麻酔が切れた数時間後からで、翌日がピークになることが多いです。個人差はありますが、2〜3日で徐々に落ち着いてきます。
痛みが強い場合は、処方された痛み止めを飲むことで十分にコントロール可能です。逆に、我慢せずに早めに薬を使う方が、ストレスも少なく回復も早い傾向があります。
ただし、腫れや痛みが1週間以上続く場合は「ドライソケット」という合併症の可能性もあるため、早めに歯医者に連絡しましょう。
抜歯後の腫れ・痛みの対処法
抜歯後の腫れや痛みは体の自然な反応ですが、ケアの仕方で回復スピードは大きく変わります。
以下の対処法を参考にしてみてください。
- 冷やすのは最初の24時間だけ
保冷剤や冷たいタオルで軽く冷やすと腫れを抑えられますが、冷やしすぎると血流が悪くなり逆効果です。 - 口を強くゆすがない
血のかたまり(血餅)が取れると治りが遅くなるので、当日はうがいを控えましょう。 - 食事は柔らかいものを
おかゆやスープなど、刺激の少ない食事を選ぶのが◎。 - 寝るときは頭を高く
腫れを防ぐために、枕を少し高くして寝ると効果的です。
体の回復力をサポートするためにも、十分な睡眠と栄養を取ることが何より大切です。
親知らずを抜いた後の食事の注意点
抜歯後は、食事内容によって回復に差が出ます。
抜歯当日は、熱い・硬い・辛い・刺激物は避け、柔らかく冷たいものを中心にしましょう。
おすすめは以下の通りです。
- おかゆ
- ヨーグルト
- 冷たいスープ
- プリンやゼリー
- マッシュポテト
逆に避けるべき食べ物は、ごま・ナッツ類・ポップコーンなど、傷口に入り込みやすいもの。
また、アルコールや喫煙も治りを遅くするため、抜歯後3日間は控えるのが理想です。
回復が進めば、徐々に通常の食事へ戻してOKです。
親知らずを抜くタイミング(年齢・時期)
親知らずを抜くタイミングは非常に重要です。
一般的には、10代後半〜20代前半が最も理想的な時期とされています。理由はシンプルで、骨がまだ柔らかく、抜歯後の回復も早いからです。若い頃に抜くと出血量も少なく、痛みや腫れも軽度で済むケースが多いです。
一方で、30代以降になると骨が硬くなり、歯と骨がしっかり結合しているため、抜歯が難航する場合があります。また、治りも遅く、腫れが長引くこともあります。
そのため、症状が出る前に定期的にレントゲンを撮っておき、「生え方が悪そう」と診断された段階で早めに抜くことが勧められます。
抜歯しないで済むためのケア方法

もし今のところ痛みもなく、親知らずを抜く必要がなさそうな場合でも、ケアは怠らないようにしましょう。
親知らずは奥まった位置にあり、歯ブラシが届きにくい場所。だからこそ、以下のような“特別ケア”が欠かせません。
- 小さめのヘッドの歯ブラシを使用
普通の歯ブラシでは届かない部分も、小さいヘッドなら磨きやすいです。 - デンタルフロス・歯間ブラシを併用
特に親知らずとその前の歯の間は汚れが溜まりやすいので、フロスを通す習慣を。 - マウスウォッシュで殺菌
毎日の仕上げに抗菌性の高いマウスウォッシュを使うことで、炎症を防ぎます。 - 半年に一度の歯科検診
自分では気づかない虫歯や歯ぐきの炎症を、早期に発見できるチャンスです。
これらのケアを徹底することで、親知らずを残しても清潔な状態を維持できる可能性が高まります。
「抜くかどうか悩んでいる間」に、まずはできるケアを始めてみるのがおすすめです。
歯医者で相談するときのポイント
「親知らずを抜くか残すか」は、自分の判断だけでは難しいもの。歯医者で相談するときは、次の3つのポイントを押さえましょう。
- レントゲンやCTを見ながら説明を受ける
目で見て位置や生え方を確認すると、納得感が違います。 - 抜くメリット・デメリットを比較して聞く
単に「抜いたほうがいい」と言われた場合でも、理由を丁寧に説明してもらいましょう。 - 今すぐ抜く必要があるかどうかを確認する
痛みがないなら、しばらく様子を見て問題ないケースもあります。
歯科医院によって抜歯の方針が異なることもあるため、不安が残る場合は**セカンドオピニオン(他院での相談)**もおすすめです。
信頼できる歯科医に出会うことで、後悔のない選択ができます。
よくある質問とその回答
Q1. 親知らずを抜いた後、腫れはどれくらい続きますか?
A. 通常は2〜3日がピークで、1週間ほどで落ち着きます。体調や抜歯の難易度によって個人差はあります。
Q2. 仕事や学校はどのくらい休むべき?
A. 軽い抜歯なら翌日から出勤・登校できますが、難抜歯(埋伏歯など)の場合は2〜3日休むのが安心です。
Q3. 親知らずが虫歯になったけど痛くない。抜くべき?
A. 痛みがなくても、虫歯が進行している可能性があります。放置せず、早めに歯医者へ相談を。
Q4. 全部の親知らずを一度に抜けますか?
A. 可能ですが、片側ずつ抜くのが一般的です。両方抜くと食事が大変になるため、段階的に行うのがおすすめです。
Q5. 親知らずを抜いた後にスポーツや運動はできますか?
A. 抜歯後3日間は控えましょう。血流が増えて出血する恐れがあります。
まとめ:あなたの親知らずは抜く?残す?
結論として、親知らずを抜くか残すかは「生え方」と「将来的なリスク」で判断すべきです。
痛みがなくても、レントゲンで見ると隣の歯を押していたり、虫歯の原因になっていたりするケースは多いです。
逆に、まっすぐ生えていて健康な場合は、無理に抜く必要はありません。
ただし、どちらの場合でも共通して言えるのは、「定期的な歯科チェック」が不可欠ということ。
放置せず、早めに専門家に相談することで、将来のトラブルを確実に防ぐことができます。
“親知らずはタイムボム(時限爆弾)”とも言われますが、適切な判断とケアでその爆弾は安全に解除できるのです。
最後に
親知らずは誰にでも起こる身近な問題ですが、その対応ひとつで口の健康寿命が大きく変わります。
痛みが出てからでは遅いこともあるため、「ちょっと気になるな」と思ったら、迷わず歯医者へ。
自分の歯を守る最初の一歩は、「知ること」から始まります。


